鎌ヶ谷市の江戸前赤酢のこと その1

創業1922年(大正11年)、鎌ヶ谷市の私市(きさいち)醸造さんを訪問しました。
一番の目的は、伝統の木桶で仕込む「江戸前赤酢」の醸造を見学させて頂く事です。
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「赤酢」が誕生したのは、江戸時代。
酒粕を発酵させて酢を製造する方法が開発され、江戸の町に広まりました。
それまでは、古くから伝わる米飯と魚と塩を混ぜ、重石を乗せて
長期間醗酵させた「熟れ寿司」が主流でしたが、赤酢と塩を混ぜた酢飯を使って
江戸湾でとれた旬の魚介類を生のまま一緒に食べる「にぎり寿司」が考案され、
「江戸前寿司」と呼ばれ親しまれていったそうです。
一般的に現在の酢飯には砂糖が使われていますが、当時砂糖は高価な物で使えません。
酒粕由来の甘味が自然と味の調和をとっていたとも考えられてるそうです。

私市醸造さんで使う酒粕は、越後の酒蔵の吟醸粕を自社で三年間以上熟成させたもの。
この旨みをました酒粕と酒、種酢を30石(約5400リットル)の杉の桶で仕込みます。
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写真右が2年物、左が3年物の吟醸粕です。味を見させて頂いたところ、
酒粕とは思えない滑らかな食感で、チョコレートペーストのようです。
甘味、酸味、微かにビターな味わいが穏やかにまとまり、わずかに吟醸香を感じ取れます。
酒粕や味噌のような濃厚さではなく、必要な旨みだけを残しているといった感じです。

蔵の中には木桶が50程あり、幾つかはメンテナンス中でしたが、
醗酵中、熟成中各10数本の木桶が静かに設置されていて、年代物の木桶も見受けられます。
蔵に入っても、酢特有のツンとした香りは無く、杉の香りと重なってやわらかな香りが漂います。
原材料が入った仕込木桶に、創業以受け継がれてきた自社酢酸菌を加え、表面に膜を張らせ、
撹拌せず自然循環を行い、ジックリと約3ヶ月間かけて酢酸醗酵を進めていきます。(静置醗酵法)酢酸菌は空気と触れる事で酢酸発酵が行われるそうです。訪問前の東日本大震災の際は、
タンクや設備の心配も当然あったそうですが、酢酸菌が液内に沈まぬよう総出で守ったそうです。
下の写真は4月下旬で肌寒い日が続いた事もあり、こもを巻き醗酵温度を保っているところです。
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特別に、木桶の表面に酢酸菌が膜を張っている様子を見させて頂きました。
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まるでクリームブリュレのキャラメルのように、厚みを持って全面を覆っています。
ふたを開た時に桶の中から湯気が立ち上りました。「生き物なんだな」と実感しました。
醗酵を終えた酢は、別の木桶に移され更に3ヶ月の熟成を施します。
この寝かせた時間がお酢に杉の香りを備えさせ、柔らかな風味が醸成されます。

こうして半年間の月日を経て、豊潤でまろみある「江戸前赤酢」が誕生します。
ささるような酸味ではない、熟成由来の旨みと深みの備わったお酢です。
出来あがった酢の色は赤というより明るい黒?といった感じです。
この酢を使う酢飯は、米と酢が合わさると赤っぽい色になることから「赤酢」「赤シャリ」
という名前が生まれたといわれています。
アミノ酸を豊富に含んだやさしい甘味ある酢、バルサミコのような奥深さ…。
そのままでも飲めてしまう程優しい味です。

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ちなみに私市醸造さんでは、同タイプの赤酢をお試しにはピッタリの
200mlサイズの小瓶で販売しています。(上記画像)

木桶で仕込む静置醗酵法の蔵を出ると、出口に100年前の木桶の底板が飾られていました。
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昔の建築物同様、製作者の事等が記されているそうです。
釘は使われず木で組んでいたのが分かります。
伝統工芸品を用い、伝統的酒蔵の酒粕を原料に醸される
伝統的な醸造酢の奥深さが伝わり、最後まで圧倒されました。


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by chibanokoto | 2011-04-25 02:45 | 最近体験した●●●のこと  

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